正論を振りかざしても部下は動かない|落語ちりとてちんに学ぶ対話術

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ごきげんさまです。いっきょう@影褒め亭です。

研修の場面でこんなことって起きていませんか。

「コミュニケーション研修をやったんですが、現場が変わらないんです」

傾聴の大切さを教えた。1on1のやり方も伝えた。正しいことを言っている。でも、部下が動かない。

この「正しいのに伝わらない」問題、実は私自身が身をもって体験しています。そして、その答えを落語の中に見つけました。


上司の失敗噺に、何度も助けられてきた

結論:正論より、笑える「失敗噺」のほうが人の記憶に残り、いざという節目で効いてきます。

かつての上司が、よく失敗噺をしてくれていたんです。

「あのときな、こんなことやってしもうてな」

何度も同じ噺。笑い噺として話してくれていたんですが、正直、もういいかなと思いながら聞いていました。

ところが不思議なもので、節目で思い出すんです。

新しいことに取り組んでいるとき。うまくいかなくて行き詰まっているとき。

「ああ、上司が言うてたんは、こういうことやったんか」

聴いているときは「もうええかな」と思っていたのに、効いていた。

研修で正論を教えられた記憶は薄れます。でも、笑いながら聴いた失敗噺は、必要なときに勝手に蘇ってくるのです。

この違いはどこから来るのか。その答えが、落語にありました。

「失敗噺に助けられる」をテーマにした図解。上司が笑いながら失敗噺を聞かせ、部下はうんざりしながらも、節目のたびにその言葉に助けられる構造を描いている。

落語『ちりとてちん』に学ぶ、「知ってる」がチャンスを潰す構造

結論:「知ってる」の一言が、相手が本音を話す舞台も、自分が学ぶチャンスも、すべて塞いでしまいます。

古典落語に『ちりとてちん』という噺があります。

旦那が友人二人に珍しい料理を振る舞います。

ひとりは素直に「うまい!」「これは初めてや!」と大喜び。もうひとりは何を出しても「ああ、それね。知ってる知ってる」と知ったかぶりをします。

そこで旦那は、腐った豆腐に「ちりとてちん」と架空の名前をつけて差し出します。

「ああ、ちりとてちん! 長崎の名物やろ。知ってる知ってる」

口に入れた瞬間、顔が歪む。でも「知ってる」と言った手前、「……うまい」と絞り出さざるを得ない。

「知ってる」の一言が、自分の逃げ道をすべて塞いでしまったのです。

笑い話ですが、これ、現場でも起きておまへんか?

部下が相談に来る。「課長、ちょっといいですか」

「ああ、それね。知ってる知ってる。こうしたらええねん」

部下の話を最後まで聴く前に、答えを出してしまう。

経験豊富な管理職ほど、この「知ってる」が出やすい。悪気はないんです。本当に知っているから。でも、部下の側からすると「聴いてもらえなかった」になってしまいます。

落語の世界では、阿呆がものを尋ねることから噺が始まります。「親方、ちょっと聞いてもいいですか?」——この一言がなければ、賢い人の出番はない。

阿呆は質問で舞台を作り、知ったかぶりは沈黙で舞台を降ります。

管理職が「知ってる」を封印して「それ、もうちょっと聞かせて」と言えたとき、初めて部下が話す舞台が動き出すのです。

(参考記事:両立支援の現場で落語が教えてくれた「自己開示」の力とは

「ちりとてちんに学ぶ」をテーマにした図解。「知ったかぶり」でソファにふんぞり返る人物が、「やせがまん」で四つん這いになる変化を描き、知ったかぶりが引くに引けなくなり結果自分がつぶれる構造を示している。

合気道に学ぶ、対話で「相手の土俵に乗る」極意

結論:自分の土俵に引き込もうとすると反発されます。相手の土俵に乗りにいくからこそ、ぶつからずに対話が生まれます。

じゃあ、「知ってる」を封印したあと、具体的にどうするのか。

私は合気道を14年やっているんですが、「返し技」の秘訣がヒントになります。

返し技のコツは、自分から相手の技にかかりにいくことなんです。

技にかかりにいく流れの中で、相手の隙を見つけ、そこを突破口にして最終的に返し技にする。

ところが、技をかけられた時に反発しようとすると、力と力がぶつかってしまいます。

自分の土俵で勝負しようとするとぶつかる。相手の土俵に乗るから、ぶつからずに技が使えるのです。

これは管理職と部下の対話でも同じです。

自分の土俵に引き込もうとすると、こちらの「正論」を先にぶつけてしまう。でも、こちらから相手の土俵(相手の感情や状況)に向かうと、相手は安心して警戒を解いてくれます。

聴くとは、相手の土俵に乗ること。

部下の話をまず、評価せずに聴く。それだけで緊張が解け、本当の対話が始まるのです。


明日から現場で試したい、管理職の「聴く」3アクション

結論:「知ってる」を捨てて相手の土俵に乗るために、明日から現場で以下の3つのコミュニケーションを試してみてください。

  • 1. 相談されたら、最初の3分間は「絶対に追加の提案(知ってる)をしない」と決めて話を聴く
  • 2. 「それで、あなたはどうしたいの?」と、部下自身の土俵(考え)を先に言葉にさせる
  • 3. 正論を伝える前に、「実は私も昔、同じ失敗をしてな」と、笑える失敗噺(自己開示)を一つプレゼントする

笑いにつつんで、教訓を相手の内側に残す

結論:正論を振りかざしても跳ね返されます。笑いにつつんで届けるからこそ、相手の内側に深く残るのです。

私がかつての上司の失敗噺に助けられたのは、上司が正論を振りかざさなかったからです。笑い噺にして届けてくれたから、私の中に残った。

落語も同じ構造です。

『ちりとてちん』を聴いて笑っているうちに、「あれ、自分も部下に”知ってる”って言うてるかも」と気づく。誰にも指摘されていないのに、自分で客観視して気づくのです。

人から言われた正論は忘れても、自分で気づいたことは忘れません。

私が企業研修で落語を使うのは、この構造を届けたいからです。

正論を上から教えるのではなく、笑いの中で自ら気づいてもらう。管理職が自分で気づいたことは、現場に戻ってからも決して消えません。

キャリコングループフルカラー寄席の一幕。いっきょうが高座に上がり、20数名の聴衆がいる。聴き入っている様子が描かれている。

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    いっきょう影褒め亭
    いっきょう影褒め亭
    国家資格キャリアコンサルタント×人生小噺家
    「国家資格キャリアコンサルタント×ビジネス小噺家」 落語の世界観に魅せられ、13年のキャリアを持つ。「死神」や「いきだおれ」といった、一癖ある演目を好む。国家資格キャリアコンサルタントとしての知見と落語を融合し、独自のスタイルを確立。人の強みや人生の物語を落語に仕立てることで、第三者視点からその人の魅力を浮き彫りにする活動をしている。 また、13年間継続している合気道の経験から、落語と合気道に共通する「相手を活かす」考え方や、継続のコツについて研究を重ねている。
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