「ほんの出来心」の退職で詰む前に。キャリア支援に活かすシュロスバーグの「戦略」|落語『おごろもち盗人』に学ぶ
「つい、カッとなって辞めてしまいました」
「なんとなく、良さそうだったので転職しました」
キャリアコンサルタント(CC)の皆様は、クライアントのこうした言葉に遭遇することはありませんか? 明確な計画がなく、その場の感情や雰囲気で動いてしまい、結果として身動きが取れなくなっている状態。
これはまるで、上方落語の『おごろもち盗人(土竜泥棒)』の主人公そのものです。ちなみに「おごろもち」とは、関西の方言で「モグラ」のこと。
彼は「ほんの出来心」で他人の家の床下から穴を掘り、手だけを家の中に入れた結果、家主に見つかって手を縛られてしまいます。体は家の外、手は家の中。進むことも退くこともできない、まさに「詰んだ」状態です。
今日は、この滑稽な泥棒をメタファーに、シュロスバーグの4S(転機を乗り越える資源)における「戦略(Strategies)」を、どうクライアント支援に活かすかについて考えてみましょう。
「出来心」という名の思考停止
クライアントが陥りがちな「出来心」の正体とは何でしょうか。ここで一席、喜六と清やんの小噺にお付き合いください。
「清やん、聞いてくれ。わいな、またやってしもたわ。その場の『出来心』で、高い壺を買うてしもてん。嫁はんに殺される!」

「またか。お前さんのそれは『出来心』やない、『思考停止』や。シュロスバーグ師匠も言うてはる。『転機』を乗り越えるには、その場の気分やのうて、ちゃんとした『戦略』が必要やってな」

「戦略ぅ? そんな難しいこと言わんといてぇな。わい、その時は『これさえあれば幸せになれる』と思てん!」

「それが危ないんや。感情だけで動くから、後で『こんなはずやなかった』って縛られることになるんやで」

落語の泥棒は、家主に捕まった時、「ほんの出来心ですねん」と何度も言い訳をします。キャリアにおいても、計画性のない行動は、しばしば「不自由な現状」という名の縄で自分を縛り上げることになるのです。

縛られた紐を解く3つのアプローチ:シュロスバーグの「戦略」
ここでCCが介入すべきなのが、シュロスバーグが提唱した、転機に対処するための3つのアプローチです。
- 状況を変える: 交渉する、環境を変える、具体的な一歩を踏み出す。
- 意味を変える: ポジティブに捉え直す、比較対象を変える(リフレーミング)。
- ストレスを解消する: 休息をとる、運動するなど、メンタルを整える。
「出来心」で動いて失敗したクライアントに対し、ただ共感するだけでは「縛られた手」は解けません。アイビィの技法である「論理的帰結」を用いて、「その行動がどのような結果を招いたか」を客観的に振り返ってもらいましょう。その上で、上記のどの戦略を使えば現状を打破できるのかを共に検討する。これが、支援における「戦略の構築」です。

「なんとなく」を「戦略」に変える力
シュロスバーグの戦略論とは、言い換えれば「行動に対する明確な理由付け」です。
当時高校生だった私の息子は、スケジュールの書き込みが定着せず悩んでいました。私は当初、環境を変えれば解決すると思いましたが、対話を深めて見つかった決定的な要因は、環境ではなく「理由(戦略的意義)」の欠如でした。
息子は言いました。
「予定を書いていないと、あとで振り返れない。何をやっていたかわからない一日を過ごしていたと思うと、とっても怖いんだ」
この「恐怖」が、彼の中で「予定を書く」という行動への強力な動機(戦略)に変わりました。「なんとなく」が「意味のある行動」へ変わった瞬間、彼の行動は劇的に変わり、自律的に動き出したのです。
キャリア支援も同じです。クライアントがその行動をする「理由(戦略的意味)」を腹落ちさせることができれば、人は自ら動き出します。

結論:クライアントの背中にある「小刀」を探せ
最後に、落語『おごろもち盗人』のサゲ(オチ)をご紹介しましょう。床下で手が縛られ、動けなくなった泥棒。通りがかった顔見知りに、こう助けを求めます。
泥棒:「背中のたすきの裏に、がま口があってな、その中に小刀(こがたな)が入ってあんねや。それ出して、紐切ってくれ」
「なんや、自分でええ道具持っとるやないか」

「せやねん。せやけど、手が縛られとるから、自分では取れへんねん!」

CCの役割は「背中の小刀」を抜くこと
私たちキャリアコンサルタントの役割も、まさにこれと同じではないでしょうか。 「出来心」で動いて失敗し、がんじがらめになったクライアント。しかし、その背中(見えない部分)には、必ずその局面を打開する「強み」や「リソース(4S)」が隠されています。
クライアント自身が忘れている、あるいは自分では手の届かない場所にある「資源(小刀)」を見つけ出し、「これを使えば、紐が切れますよ」と手渡してあげる。
「なんとなく」の行動を「意図的な」戦略へ。 客観的な視点を持つプロフェッショナルとして、クライアントを不自由な状態から解放する「小刀」を共に見つけ出していきましょう。
どうぞ、よい戦略を。

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