キャリアコンサルタントのセッション構成術|落語に学ぶ「序破急」で心を開く

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~型を身につけ、時間の略奪者から卒業する~

キャリアコンサルタント(以下、CC)の皆様。

セッション中、クライアントが建前や一般論ばかり話し、なかなか本音や行動に繋がる「核心」にたどり着けない、という経験はありませんか?

「話が長い」「ラポール(信頼関係)が築けない」と悩む場合、それは単に「クライアントが心を閉ざしている」のではなく、私たちCC側が、クライアントの脳と心に「話すべき道筋(構造)」を提示できていないことが原因かもしれません。

他人の時間を奪う「話の長い専門家」にならないためにも、相手の思考を最短距離で深掘りするための「構造(ストラクチャー)」が不可欠です。

私が14年間学んできた落語の世界では、先人たちが400年をかけて、人間の心にもっとも心地よく、かつ強烈に情報を届けるための「型」を開発しました。それが、「序破急(じょ・は・きゅう)」という手順(アルゴリズム)です。

今回の記事では、この伝統的な構成論を、クライアントのキャリア支援における「論理設計の土台」として再定義します。情報を並べるだけの「陳列係」から卒業し、構成の型を身に着け、クライアントを行動変容へと導く最短距離を設計するための図面を広げましょう。


クライアントの「心を開く」ための構造:序破急とは

「序破急」とは、単なる「はじめ・なか・おわり」の言い換えではありません。それは、クライアントの「心理状態と対話の深度」をコントロールするための設計図です。

【序(導入)】:信頼というフックをかける

落語における「マクラ(序)」の役割は、「この噺家に身を委ねて大丈夫だ」と錯覚させ、信頼というフックをかけることです。

  • 落語の型(実演の序): 私は、落語を知らない方に向けて、最初に「落語を聴くお作法」を伝えます。「面白い時は遠慮なく笑ってくださいね」と一言添えるだけで、聴衆は「あ、笑っていいんだ」と安心し、対話を受け入れる「心の空席」が生まれます。
  • CCへの応用(ラポール形成): クライアントの深い内省を受け入れる「受信モード」を作るため、冒頭の数分で信頼というフックをかけなければ、続く深い対話は徒労に終わります。序とは、クライアントの脳内に安心感をインストールする作業なのです。

悪い例: いきなり本題に入る

「へえ、職務経歴書を見せてくれるか?早速、転職の希望時期から聞かせてもらおうか」

喜六
喜六


良い例: 安心感のインストール

「まあまあ、そうせかんで。ここでは、まとまっていない話をしていただいて構いません。うまく話そうとせず、思いついたことから言葉にしてみてくださいな」(→クライアントの「心の空席」を作る)

清やん
清やん

【破(展開)】:葛藤(自己不一致)を描く

対話を深掘りするフェーズです。ここで重要なのは、単なる事実の聞き取りではなく、クライアントの「自己不一致(理想と現実のギャップ)」という葛藤を明確に描くことです。

  • 落語の型(実演の破): 私は、紙芝居を見てもらうように、聴衆に情景を想像させながら、登場人物の理想と現実のギャップを際立たせ、笑いを引き出す葛藤を演出します。貧乏長屋の八っつぁんが、大金持ちになる夢を語る時の「高低差」が物語を動かすのです。
  • CCへの応用(内省の深化): 単に「転職したい」というニーズを聞くだけでは弱い。「現状に固執した場合の未来」と、「理想を実現した場合の未来」のコントラストを強く提示し、クライアントの内省を深めます。その高低差(葛藤)こそが、クライアントの思考を物語(行動計画)に引き込む強力な重力となるのです。

悪い例: 事実確認のみ

「ほんで、転職の希望時期はいつですか?希望年収は?そら事実だけ聞いていこか」

喜六
喜六

良い例: コントラストの提示

「もしや、何も変えずに3年経ったとしたら、その時のご自身はどんな顔をしていると思いますか?逆に、理想を実現した場合、今と何が一番違いますか?」(→高低差(葛藤)を明確化)

清やん
清やん

【急(収束)】:行動への着地(ランディング)

そして、一気に着地点へと向かう。落語の「オチ(サゲ)」にあたる部分ですが、これは単なるセッションの終了ではありません。「行動への着地(ランディング)」です。

  • 落語の型(実演の急): 私は、最後の展開がどうなっていくのか、聴衆を飽きさせないよう緩急をつけてオチへ向かいます。ダラダラと説明せず、スパッと落とす。この鋭い着地が「余韻」となり、記憶に残ります。
  • CCへの応用(行動変容): ダラダラと終わるのではなく、スパッと切る。加速をつけて、「今日決めるべき一つ」という出口へと放り出す。この鋭い着地が「余韻」となり、クライアントに「このCCといると、必ず着地する」という確信を持たせ、次回のセッションへの期待値へと変換させるのです。

悪い例: 消化不良な終わり方

「ああ、いろいろお話が出ましたが、時間が来ましたな。また次回考えましょう」

喜六
喜六

良い例: 鋭い着地

「では、今日出た話の中で、明日『これだけはやる』と約束できるスモールステップを一つだけ決めるとしたら、それは何ですか?」(→行動への着地を促す)

清やん
清やん

結び:あなたは「情報の陳列係」か、「論理の設計者」か

話が長い、伝わらない、セッションが深まらない。それは能力の問題ではなく、「構造」に対する意識の欠如です。情報をただ並べて「あとはそっちで選んでくれ」というのは、陳列係の仕事であって、プロフェッショナルの仕事ではありません。

今回ご紹介した「序破急」というフレームワーク。これは、あなたの頭の中にある混沌とした情報を、クライアントの脳内に行動変容を促す形式へと変換するための変換器(コンバーター)です。

明日からのセッションひとつ。意識してみてください。「序」で信頼を惹きつけ、「破」で葛藤を展開し、「急」で行動に刺す。

そのとき、あなたの言葉はノイズではなく、クライアントを動かすシグナルへと変わるでしょう。

どうぞ、よい「構成」を。


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ABOUT ME
いっきょう影褒め亭
いっきょう影褒め亭
国家資格キャリアコンサルタント×人生小噺家
「国家資格キャリアコンサルタント×ビジネス小噺家」 落語の世界観に魅せられ、13年のキャリアを持つ。「死神」や「いきだおれ」といった、一癖ある演目を好む。国家資格キャリアコンサルタントとしての知見と落語を融合し、独自のスタイルを確立。人の強みや人生の物語を落語に仕立てることで、第三者視点からその人の魅力を浮き彫りにする活動をしている。 また、13年間継続している合気道の経験から、落語と合気道に共通する「相手を活かす」考え方や、継続のコツについて研究を重ねている。
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