【キャリアコンサルタントの傾聴力】技法が「棒読み」になる理由と、落語に学ぶ「共感」の力
キャリアコンサルタントにとって、カール・ロジャーズの「共感的理解」は全ての根幹です。 しかし、「そのあり方を現場でどう体現すればいいのか?」と悩み、アイビィの「マイクロカウンセリング」といった技法(型)をなぞることに必死になってしまうことはありませんか?
ここで重要なのは、スキルはあくまで「思想を届けるための器」だということです。 思想という魂が抜けたまま、スキルという「型」だけをなぞれば、それは支援ではなく、ただの「独りよがりの振る舞い」に成り下がってしまいます。
「相談の勉強始めたんやけど、教わった通りに言うても相手の顔がちぃとも晴れへんねや。難しいもんやなぁ」

「それは、心がのってへんのや。形も大事やけど、魂が入らなんだら空っぽの器や。まるで『七段目』の若旦那やな」

今回は、私が落語の高座で演じた『七段目』という噺(はなし)を通して、技法に溺れず、クライアントの「現実」に寄り添うためのヒントをお伝えします。
技法に溺れるな:落語『七段目』が教える「型」の落とし穴
落語『七段目』に、私たち支援者への強烈な警鐘とも言える場面があります。
芝居にのめり込む若旦那と奉公人の定吉。二階で歌舞伎の「仮名手本忠臣蔵(七段目)」を熱演するあまり、定吉が階段から転げ落ちて目を回してしまいます。心配した旦那様が「どうした?」と駆け寄ると、定吉は朦朧(もうろう)としながらこう返します。
定吉「いいえぇ、七段目」
階段から落ちたという痛々しい「現実」の中にいながら、心はまだ「物語(芝居)」の中にいる。 これは笑い話ですが、相談現場でも同じことが起きていないでしょうか。
アイビィの技法という「型」に没入するあまり、目の前のクライアントが踏みしめている「現実の痛み」から、自分だけが浮き上がってはいないでしょうか。「技法を正しく使うこと」に必死で、クライアントが階段から落ちている事実に気づけない――これでは共感どころか、ただの「型」の押し付けになってしまいます。

「共感」とは、クライアントの現実の階段に立つこと
アイビィのマイクロカウンセリング技法は、ロジャーズの説く「共感」を具体的に届けるためのツールです。しかし、どれほど見事な「型」であっても、そこに「無条件の肯定的関心」という魂が伴わなければ、クライアントの心には届きません。
特に就職氷河期世代の支援において、この「形」と「実」の不一致は決定的な溝を生みます。「自業自得」「人生終了」といった過酷な言葉を胸に秘めて来談する彼らは、コンサルタントの言葉が「技法の台本」から来ているのか、それとも「自分の痛みを分かち合おうとする意志」から来ているのかを、驚くほど鋭く見抜きます。
ロジャーズの思想を具現化するとは、技法という「型」を使いながらも、意識のピントは常にクライアントが今まさに落ちようとしている「現実の階段」に合わせ続けることなのです。

落語の「演じる技術」をカウンセリングに応用する
では、どうすれば「型」に魂を宿し、クライアントの現実に即した支援ができるのか。 私は落語を通してその極意を学びました。
- 登場人物全員の思いをイメージして演じる
落語家は高座で一人何役も演じ分けますが、それは単に声色を変える技術ではありません。私自身、実際に『七段目』を演じた際、若旦那の熱狂、定吉の戸惑い、そしてそれを見守る父親の嘆き……登場人物全員の人生背景に意識を飛ばし、その人物に思いを馳せて「演じる」ことを徹底しました。 それぞれの置かれている立場や感情を深くイメージすることで、初めて、その場においてどのような言葉をかけ、どのような振る舞いをすべきかという「最適な対応」が自然と掴めるようになるのです。 - クライアントの「背景」まで聴く
このプロセスは、キャリアコンサルティングの現場にもそのまま通じます。 クライアント一人の言葉だけを追うのではなく、その背後にいる家族や上司、あるいは「かつての自分」といった登場人物全員の思いを多層的にイメージして聴く。 すると、自然とこちらの非言語(表情や声のトーン)に奥行きが生まれ、アイビィの技法は「台詞」ではなく、血の通った「応答」へと変わります。
「なるほどなぁ。声色(こわいろ)やのうて、相手の背景を思い描いて『演じる』んやな。そら、ええ言葉も自然に出てくるわ」

「せや。相手の後ろにおる人まで『画』に浮かべてみ。お前さんの技法に、血が通い出すさかい」

結び:階段を降りた先にある「新しい物語」へ
支援者がクライアントの物語を多層的に捉えていれば、クライアントの心にふと「考える余地」が生まれます。「私一人がダメなんだ」という狭い視点から、自分の人生という舞台を俯瞰して眺め始める。これこそが、ロジャーズの思想がアイビィの技術によって具体化された瞬間です。
若旦那と定吉は階段から落ちましたが、私たちはクライアントを落としてはいけません。
アイビィの技法という「型」を修練し、最後にはその型を破って、目の前の相手と「同じ画(え)」を見る。 形だけの芝居はもう終わりです。今日からあなたの相談室を、クライアントが主役として次の一歩を踏み出すための、真実の舞台に変えていきましょう。
あなたの支援を「戦略的資産」へ進化させるために
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