【キャリアコンサルタント向け】「共感的理解」が深まる技術
~落語に学ぶ、クライアントの「画」を浮かべる聴き方~
キャリアコンサルタントの皆様。
ロジャーズの「共感的理解」を実践する際、クライアントの言葉を単に「追う」だけで精一杯になっていませんか?
「相手の靴を履く」とはよく言いますが、実際には片方の靴を履くだけでは、物語の全貌は見えてきません。 実は、落語の技術には、クライアントが自身の置かれた環境を俯瞰し、自らの力で本音を語り始めるための強力なヒントが隠されています。 キーワードは、「登場人物全員に意識を飛ばす」ことです。
落語『ラーメン屋』に見る「共感的理解」とは?
先日、私が高座で披露した昭和の喜劇王・柳家金語楼(有崎勉)作の人情噺『ラーメン屋』。ここには、子どものいない老夫婦と、世間から見放された親なしの若者が登場します。
演者である私は、この三人の誰か一人に肩入れするのではなく、全員の人生背景に意識を飛ばします。
- 老夫婦:子どものいない寂しさを抱えつつ、目の前の若者に無償の慈しみを注ぐ。
- 若者:世間の冷たさに凍え、差し出された一杯の温もりに涙する。
それぞれの状況を「あたかも自分自身のこと」として想像し、さらに「作中の人物同士が、互いをどう想い合っているか」までを多層的に想像して演じます。 この「全員への意識の飛散」が徹底されると、聴き手の脳内に実際の状況が鮮明な「画」として浮かび上がるのです。
「わいがラーメン食べて泣いてる若者の顔まで浮かんできたのは、いっきょうさんが全員に化けとったからか!」

「せや。一人に惚れ込んどったら、物語の『画』は完成せんのや」

なぜ「画が浮かぶ」とクライアントは変わり始めるのか?
キャリアコンサルタントがクライアント一人の言葉に固執せず、その背後にいる家族や上司、あるいは「かつての自分」といった登場人物全員にまで意識を広げて聴いていると、その奥行きが非言語(表情、間、声のトーン)として伝わります。
すると、クライアントの心に「考える余地」が生まれます。
「私一人がダメなんだ」という狭い視点に閉じこもっていた状態から、ふと「上司もまた、何かに追われていたのかもしれない」と、自分の置かれた環境を俯瞰して眺め始めるのです。 これこそが、厚生労働省が定義する能力要件の一つ「環境への働きかけ」の糸口となる視点です。
「相手の周りまでぐるりと見渡して聴く。これだけで、相談者の心に新しい風が吹くわけなんやな」

「せやな。俯瞰して見えれば、自分を責めるのんと違う道が見えてくるもんや」

「自分事」と「客観視」の自己一致
クライアントが自分の置かれた環境を鮮明な「画」として捉えられたとき、一歩引いて物語を眺める「余裕」が生まれます。 この「自分事でありながら、客観的でもある」という状態こそが、ロジャーズの言う自己一致(自己概念と経験の一致)へと向かうための最高の土壌です。
落語家が舞台上で何人もの人生を同時に生きるように、私たちコンサルタントもクライアントの物語の中にいる全員を自分事として捉える。その「全方位の共感」が、本音を呼び覚ますトリガーになります。

結び:クライアントの人生を「再構成」する支援
話の構造(序破急)を整え、そこに「全方位の共感」という血を通わせること。 それは情報の陳列係ではなく、クライアントと共に物語を再構成する「設計者」であることを意味します。
明日からのセッションで、クライアントの背後にいる「登場人物」にも、そっと意識を飛ばしてみてください。 その瞬間、あなたとクライアントが見る「画」が変わるはずです。
どうぞ、よい構成を。
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